難しい芸術

先進美術館リーディングミュージアムに渇!(3)
【アートの本格解説】

9 美術市場をリードする人づくり

著者が考える美術市場拡大作戦。その現場担当は、普通に考えればギャラリスト(画商)やアート・エージェント(販売代理人)、アート・プロデューサー、クリエイティブ・アドバイザーなど、民間の美術関係者が妥当です。売買現場の仕事師。今は売買の現場が少なくて、全体に人材不足ですが。

これから人材を濃くして、育成も行います。有資格者ではなく、実力者をつくります。血統書頼みは転落の元。作品を見るだけで芸術性を読み取る人は従来は少なかった。そこを増やせば、芸術立国に届きもするでしょう。フランス程度には並ぶはず。

日本国民は概して展示物の知名度を当てにし、無名に関心を持たない傾向があります。世評に沿って、右にならえするみたいな。難解な作品になぜか人が集まっている時は、名前買いのパターンですね。有名人の作だからと。そこは確かに急変は無理で、世代交代も含めて年月が必要です。

だから美術館の収蔵品を手放す大変化は、並行させません。一人の青春ではないから、能力を超えた無茶は厳禁。今の学芸員以上に、これから新しく生まれる創造を拾うプロが市場に必要だからです。

学芸員だけでなく民間ギャラリストも、芸術的な判断で作品を回せる保証は不確実だとして。それでも未来につなぐよう、今から鍛える。19世紀の画商ヴォラールのごとく新作を見通す目は、民間ギャラリストが適任でしょう。

ちなみにヴォラールは、1895年にゴッホ回顧展を行っています。今から123年前。書簡集はその19年後の20世紀なので、まだ無名のゴッホを早く拾い上げた希有な画商でした。

10 日本に芸術文化が苦手な人が多い原因

先進国の中で、なぜか日本だけ美術市場が不自然に小さい理由は、芸術が苦手な国民が不自然に多いからです。

その原因は、結果と同一です。作品を真剣に見なくて済むせいで、作品を真剣に見なくなる悪循環が存在します。そこに謎はありません。

その元凶となる原因は、全く意外で奇想天外なことです。それは、公募コンテスト展です。

「公募コンテスト展」は、芸術と相性が悪い方式です。人はコンテストになじむほど、芸術が苦手になります。苦手になった結果、コンテストでないと鑑賞しにくい負の循環が起きます。

「何だって?」「いったいどういうこと?」「意味が全然わからない」と、キツネにつままれた気分かも知れません。詳しく説明しましょう。

公募コンテスト展とは、フランス語でコンクール。制作競技でありコンペティションです。いわゆるコンペのこと。ゴルフコンペとは、景品レースですね。

公募コンテスト展を開催する手順はこうです。まず主催者の元へと、画家が作品を送ったり持ち込みます。すると審査員が採点します。点数が高いと合格して、「入選作」と呼ばれて展示許可が与えられます。市民は見ることができます。

合格した入選作の中から、金賞、大賞、一等賞、特別賞、大臣賞など「入賞作」も事前に選び、市民はその結果もセットにして見ます。

一方、点数が低いと失格して、展示は不許可となります。同じ金額を払っていても、展示の権利を得ません。作品は会場にないから、市民は見ることができません。開催前に画家へ返品されます。

日本では大規模展覧会のほとんどが、この公募コンテスト方式です。コンテストでない展覧会といえば、ゴッホ回顧展などを除けば、個展や仲良しグループ展やサークル発表会などになります。だから、毎年恒例の有名展覧会は全てコンテストです。

11 公募コンテスト展は18世紀の美術向け

公募コンテスト展の最大の特徴は、審査員が事前に値打ちを決める点です。日本では全く当たり前のコンテストですが、実は日本以外ではあまり行われません。

公募コンテスト展は、庶民は芸術がわからないだろう、との前提で行われます。だから庶民に代わって、審査員が作品の価値決めを一手に引き受けます。その結果を庶民に教えるわけです。「これこれの作品が優れものですよ」と、庶民に入れ知恵します。

その公募コンテスト展の意外な特徴として、展示会場で作品の売買が禁止されているのです。思い出してみると、壁にもカタログにも値段が出ていませんね。応募要領書には、売買は禁止だとしっかり書いてあります。

出品画家が会場へ出向いて、入選した自分の絵の前で商談をやってはいけません。まして金銭授受は絶対厳禁です。販売すること自体が違反なのが、公募コンテスト展の大きい特徴です。

つまり、日本でアートが売れないのは販売禁止だから。売っていないのだから、売れるわけがありませんね。日本の展覧会は市場を否定しているから、市場が小さい当然の結果が出ています。敗因がちゃんとあったのです。日本国政府はそこに気づいていません。

「それなら外国はどうなっているの?」と疑問がわくと思います。欧米で公募コンテスト展がめったにないのなら、よくある展覧会の話題はいったい何なのか。答はアートフェアです。

12 アートフェアは20世紀以降の美術向け

アートフェアとは、美術販売会のことです。ドイツ語でメッセ。幕張メッセのあの見本市の意味です。作品全てに値段がついて、入場者が自由に買える展覧会です。

フェアとは販売会です。イメージが近いのはバザー。全国駅弁祭などはフェアの典型です。駅弁と同じで、美術でもタイトルカードに値段が書いてあります。作品カタログにも価格の数字が出ていて。

市民が自由に買うフェアなら、審査して金賞の花やリボンをつける必要がありません。「皆さんはこれを食べるべし」と主催者が指導しない駅弁と同じ。商談が成立すれば、購入者が賞を与えたも同然だから。

欧米の有名な大型展覧会は、大半がこのアートフェア方式です。ハイエンドはスイスの『アートバーゼル』、ミドルレンジはアメリカの『ファウンテン・アート・フェア・NY』、エントリーは町内のアートイベントも皆このタイプです。画廊単位で参加して、ブースを構えます。主催者は参加画廊を募集します。作品の募集ではなく。

権威者が独断と偏見で作品を取捨する公募コンテスト展を、欧米はとっくにやめていたのです。独裁者方式でなく、市民が値打ちを決める民主化された方式が定着しています。

この「民主化」の意味は、民主主義とは違います。民主主義で芸術は決まりません。多様な作品を、多様な感覚で分担し賞味する民主行動です。市民はサイフを持って、予算を決めて見に来ます。

展覧会の概念自体が、日本と欧米でかなり違います。日本では作品を見て心の糧(かて)とし、感動を胸に帰宅する。欧米では作品を買って心の糧とし、実物を手に帰宅する。日本は見るつもり、欧米は買うつもり。

欧米では、展覧会が市場だという。会場は売店だという。

大事なポイントがあり、欧米のアートフェアは全て現代美術です。新興のコンテンポラリーアートばかりで、クラシックは扱わず。骨董市や古美術商談会とは混線しない未来指向です。

マンションの40センチ作品も、向こうは普通に現代アートです。「印象派ならわかるが、現代アートは全然わからない」という感覚は、実は日本に特有だったのです。