難しい芸術

消費税と芸術はどちらが簡単な話か(3)
【アートの本格解説】

9 所得税と消費税は何が違うのか

ここで、ピピッとひらめいた方もいるでしょう。「要はお金が増えすぎたら減らして、減りすぎたら増やせばよいのか」「金満と飢餓の両極端でなく、中ほどにお金の量を保てばよいのか」。

実はそうです。そして「中ほど」の基準金額がじりじり上がることを、経済成長と呼ぶのです。

インフレになればお金を回収し、デフレになればお金を追加補充する。この技術は、主にイギリスで発明されました。銀行業務自体がイギリス文化です。

ここで課題が出てきます。100兆円増やして40兆円回収する、その回収法はどれが適切か。酒税かタバコ税か出国税か。全員から取る消費税か、お金持ちへの相続税か。譲与税もあるし。

どの税も一長一短な中、ずば抜けて長所が目立つ税が二つあります。所得税と法人税です。なぜかといえば、収入がない人や企業は払わなくてよいからです。低所得すぎると免税されます。

所得が増えた人からは、たくさん取ります。減りすぎた人からは一円も取りません。笑いが止まらない人から多めに取ります。泣きが止まらない人はスルー。

これが所得税と法人税の正義であり、自動的に福祉まで実現し人権侵害をゆるめ、共産主義革命をも阻止するインテリジェント税制です。そして景気が上がると、払う人が激増します。

ポイントは累進課税です。所得税は所得が増えるほど、税率までが上がります。勝ち組の中でも、勝ちが小さいと少なく取るのです。強者から巻き上げ、弱者には手加減する。

地位の高低(能力の高低でない)や職種で生じる格差を縮めるために、高所得者から多く取ります。その結果、雇用側は内部留保が無駄になると思って、企業活動の消費に回します。

福利厚生で部下思いの会社をアピールして、人材を集めたり。社内の憎み合いも減り、パワハラなどのブラック度を薄めます。身分差別や職業差別を改善してきた伝統と憲法に、累進課税は合います。

しかし欠点もあります。年に一回の徴収だから、急ブレーキが利きません。

そこで、超インフレ原因の爆買いを急いで止めるために、消費税も考えられます。

消費税は消費への懲罰です。消費金額にもろに税金をかけるから、買い物客を直接叩いてギャフンと言わせ、買い物をやめさせられます。乱暴だけれどスピーディー。

遠回しでないから、消費者をその場でシバける。消費税はこのダイレクト感で、年度の途中で税率を上げて物の売買をストップさせ、消費を冷やして経済縮小させる力が異様に強い。超のつくハイパーインフレの予兆を一発で打ち砕けます。

当然、消費税にもまた財源確保の意味はありません。物が売れて売れて困る時の緊急措置、駆け込み対策が消費税です。ほかの目的を言う者は、勘違いか税制の悪用が疑われます。

10 これが経済を上げ下げする調整法

もっとひらめいた方がいるかも知れません。国税の上げ下げで国をコントロールできるぞ。

増税して産業を減らせるし、人口も減らせる。逆に減税して産業も人口も増やせる。

国民の能力や努力に関係なく、国民の生命財産をどうにでもできる。税率だけで、一国を生かすも殺すも。おもしろすぎ。

予算100兆円なら、新規60兆円に、回収40兆円を足す。この60対40を変えればどうなる。

新発行だけでまかなう100対0だと、過剰インフレになります。回収だけでまかなう0対100だと、過剰デフレになります。前者に近い国がベネズエラ、後者が日本。

両国の中間のどこかに、経済が伸びも縮みもしないゼロ成長ポイントがあります。そのポイントは国よって違い、仮に50対50の国があるとして。財政出動を増やした70対30に変えたら、好景気にできます。30対70と徴税を増やすと、不景気にできます。

そのミックス割合は、何を基準に決めるべきか。

インフレ率が年に2から4パーセントになるよう、経過を追跡しながら調整します。この目標値をインフレターゲットと呼びます。

インフレ率とは、前年に対する翌年の物価上昇率です。インフレ率がゼロならよさそうですが、実は極貧になります。現に日本の平成終盤のインフレ率はプラス0.4パーで、デフレ経済でした。

具体的には、児童の7人に1人が貧困化したと、ユニセフから勧告を受けました。大学の奨学金を返せず、売春に手を出す女子社員の増加、低いインフレ率だと、国民の貧困化が進むのです。

日本のバブル時代のインフレ率は、1991年が最高で年率3.25パーセントでした。高度成長時代は7パーセントだそうで、これも目安になります。

ところで「超ではない適度なインフレ」はなぜ必要か。なぜ今後も、実質賃金を上げ続けたいのか。経済成長の放棄は、なぜだめなのか。

ひとつはヒトの脳のはたらきです。今日より明日の方が、できることが拡大するのが人類の夢です。足踏みや後退だと心が折れます。投げやりや不機嫌になり、イライラ、ギスギスする。治安悪化して紛争や戦争の空気につながる。デフレだと、必ず犯罪が多発します。

そして、若者に無駄な買い物と体験が必要です。家庭ロボットや空飛ぶ車もあるし。要は、物知りで知恵のある若い人材づくりに金がいる。ノーベル賞の物理、化学、医学が先進国に多い理由と同じです。

しばしば日本人が見落とすのは、日本以外に194国もある点です。経済成長を止めれば、国際的な地位が落ちて他国に食われ、企業も領土も買い叩かれ、持って行かれます。もう起きています。

日本より先進のドイツやイギリスも、この30年に経済成長したと理解する必要があります。

11 景気が戻れば暮らしはどう変わる?

令和日本のデフレ経済を、適度なインフレ経済へとひっくり返し、GDPを増やし好況に変える方法は容易です。今ある4つの国策を逆転させます。

逆転させるとこう。「消費税廃止」「積極財政」「基礎的財政収不均衡」「政府赤字拡大」の4つ。

「減税したら財源はどうするの?」。答はもうご存じですね。財政出動です。貨幣プリンター。もし財政出動が少なめなら、第5策の「直間比率の見直し」が加わります。「所得税の累進強化」。

その結果、GDPが増え始めます。国民全般の所得が上がります。すると美術品が売れます。

なんで美術が最初なの?。実は景気が上がる夜明け前に、日本では美術が先行して売れるのです。インスタレーション全盛だった1980年代半ばにも、アメリカ製の版画が売れました。

美術に遅れて、景気がよくなると何が変わるか・・・

(1)若者が車に関心を持ち一台ずつ買う。(2)ゴルフ、スキー、テニス、水泳がブームになる。(3)鉄道模型や天体望遠鏡やシンセサイザーや応接セットが売れる。(4)グッドデザインが人気になる。(5)水筒を持ち歩かず缶ジュースやお茶を買う。(6)スーパーやコンビニの閉店時刻が延びる。(7)ネットに趣味雑学の記事が続々登場。(8)結婚ブームとベビーブームになる。

(9)事故や故障や不正や偽装が減る。(10)詐欺や暴力や路上テロや大量殺人が減る。(11)過労死、自殺、無理心中、幼児虐待が減る。(12)皆の性格が温かくなる。(13)皆の仲がよくなる。(14)モンスタークレーマーの沸点が上がりトーンダウン。(15)芸能人叩きが止まり大目にみる風潮へ。(16)他人をマウントしたい気持ちが薄れる。

(17)国内企業が他国企業を買収する。(18)中小企業が増えて業績も伸びる。(19)日本製の5Gや次世代スマホの国内開発ラッシュ。(20)趣味の分野で事業が林立。(21)有名製品や有名雑誌が復活する。(22)ファッションブランドが次々デビュー。 (23)チクワなどの大型化やプラス一個や増量10パーセントのブーム。(24)細かいサービスが無料になる。

(25)残業代を全額払う法律ができる。(26)無駄をなくす運動が周囲から浮く。(27)節約する人生が悲しく映る。(28)自己責任論が流行らなくなる。(29)国際社会で日本の地位が上がる。(30)日本批判に腹が立たなくなる。(31)障がい者を邪険にしなくなる。(32)突飛なコマーシャルが増える。

(33)企業の収益が年々増加。(34)株主の利益が年々増加。(35)労働者の所得が年々増加。(36)各家庭の台所が年々潤う。(37)年金生活者の所得が年々増加。(38)政府の税収が年々増加。(39)都道府県市町村の予算が年々増加。(40)カネカネ、カネカネ、カネカネ言う人が減る。

12 美術にくらべ経済の教科書はトンデモ

政府は財政出動を、延々と無限には続けません。景気が上がれば、民間資金にバトンタッチします。資本主義の半分は民力で行い、政府はデフレの時に大活躍し、好景気になると引き下がります。

政府財政出動は、車でいえばスターター・モーターです。デフレなら表に出て、インフレなら裏方。

景気上昇が軌道に乗れば財政出動を小さくし、10対90など税金の割合を増やします。民間でお金をどんどん増やせば、全体のパイが大きくなり、税の自然増が期待できます。

どの場合も、市場でお金を生む役は銀行です。世界中の銀行は特殊な権限を持ちます。お金を生み出す「マネー・クリエイション」です。直訳なら貨幣創造で、日本では信用創造と呼びます。

銀行が会社社長にお金を融資する時、「マネー・レンタル」ではなく、「マネー・クリエイション」と呼びます。無から有を生むから、レンタルでなくクリエイション。

銀行は国民から預かったお金を、企業に貸すわけではありません。

さあ、ここが大事。

日本より徹底しているイギリスなどでは、銀行の資産がゼロでも無限に融資が可能です。返せる人がいる限りいくらでも貸せます。これを「万年筆マネー」と呼びます。貸すお金は貯金通帳の数字です(昔は万年筆で手書き)。さらに大事なことは、いくら巨額を貸しても世の何も減りません。

預金者のお金を移動せず、コピーもしません。完全に何とも関係なくお金を新造します。それが信用創造です。子どもを産んだ時、入れ替わりに犠牲者が出ないのと同じ。

「貨幣は借金によって生まれて増える」という現代のルールです。

経済学的には、融資された借金を返すと世のお金は減り、GDPが下がり不況に傾く理屈です。銀行借金だらけこそが吉なんですね。銀行借金ですよ。友人やサラ金からの借金はこの話に関係なくて。

そしてこの実体経済は、世界であまりにひどく誤解されています。芸術よりもっとひどい。

国会でスピーチする経済学者やノーベル経済学賞の人までが、銀行融資とは国民の貯金を吸い上げ、裏でひそかに使い回し、目減りさせる罪だと思っています(クラウディングアウトの誤謬)。国債を発行した金額だけ、国民の資産が食いつぶされるとの勘違いが、100人中およそ99人です。

この多さは、経済学の教科書が間違っているせいです。信用創造の説明はウソばかりで、ネット情報も「国民の貯金を転がし儲ける銀行」「家庭も国もお金は使えば減る」「無駄をなくして日本再生」など、あべこべの誤ったスローガンだらけです。

国をあげた出費の削減こそが自害と気づかないのは、教科書の文章がウソだから。

では、いつから信用創造はウソ説明ばかりになったのか。

1973年からです。「金本位制」を「管理通貨制度」に変え、「固定為替相場制度」を「変動為替相場制度」に変えた年。しかし古い理論体系が居座り、今も教科書の記述は間違いだらけです。

分岐点は1971年の「ニクソンショック」でした。ドル紙幣をゴールドの金塊と交換する約束を、アメリカ大統領が終了宣言しました。別名「ドルショック」。なのに古典理論は退かずにいた。具象画の鑑賞法で抽象画を斬るみたいに、古風な解釈でコケるドジな国がいくつも現れました。