難しい芸術

消費税と芸術はどちらが簡単な話か(2)
【アートの本格解説】

5 お金の生まれ方と政府の財政出動

インフレの前に、国家経済の仕組みに触れてみます。

日本の円は、海外から購入していると思うかも知れません。純金やダイアモンドを買うみたいに。実は、お金は自分の国内で発行します。自国通貨(主権通貨)と呼び、中央政府が手続きします。

円というお金を生む神は、誰なのか。民間の銀行です。誰かが借金した時にお金が生まれます。借り手の最も大口が政府です。だから、政府がお金を「つくっている」「発行している」の言い方がされます。政府の判断で銀行にお金を生ませる意味です。

お金の発行は銀行ですが、発行する主人は政府です。「秀吉が建てた初代大阪城」と似た表現です。

政府が新発行したお金を民間、つまり一般国民に回すために、政府事業が存在します。一例がリニアモーターカーです。リニアモーターカーは、鉄道会社の自主企画ではなく国策です。国が後押しして。

民間資金以前に、多額の政府出資を行います。政府のお金が、大手建設会社に設計施工料として払われます。地元下請け工務店も含めて、社員やアルバイトへ分配され、家賃で大家さんへ渡り、周囲のコンビニや子どもの給食費でも広がります。

これはつまり、政府による買い物です。日本国への投資。

政府借金で生む貨幣で民間に工事させる取り引きで、民間へ資産を移動する、そのいわば儀式が国債発行。金利の上下を防ぐために、巧妙に転がすのです。

リニアモーターカーへの政府投資を、「財政出動」「積極財政」と呼びます。国会議員と官僚の腕の見せどころ。

財政出動のお金は、税金ではありません。国民から取った国税を、リニアモーターカーに当てるわけではなくて。政府がお金をデジタル出力します。政府自前の、自作したお金です。自己資金です。

6 税金ドロボーと打ち出の小づち

国家の経費は、国民のお金をパクッて使うわけではないのです。「財源はどこ?」「俺たちの血税」「ツケを払わされるのは国民です」の言い方は、根本から間違いです。

「国会議員は税金ドロボーだ」「国家公務員もだ」「官僚は我々のお金を天下り団体に流している」の批判も、どれも外れです。政府がお金を発行し、市中銀行の相手口座に払えば済むから。「富裕者の納税が貧乏人に回される」も同じ誤解です。回していません。

家庭や企業の出費を国に当てはめ、節約を唱える意見がすごく多いけれど、完全に間違いです。

サザエさんの家に、貨幣プリンターはありません。マスオさんの会社にもない。カツオくんの学校にも。ところが政府には貨幣プリンターがあります。政府の出費は、政府の自作のお金で払うのです。

お金をつくる立場が、お金を使う・・・どゆこと?。

お金をつくれたら、財源は増えるの?・・・どゆこと?。

お金をつくる立場が、お金を使う・・・。これが、いかにぶっ飛んでいるか。芸術より3.25倍は想像力たくましくないと、頭がついていきません。第一政府にとって、お金は金目のものではない。

お金をヒョイと出力できるなんて「打ち出の小づち」ではないかと、疑問も出るでしょう。この制度の正体を暴露すれば、まんま打ち出の小づちです。日本だけではなく、世界がこの制度です。

「世に打ち出の小づちなど、ありません」と言い出す経済人は、ウソつきです。打ち出の小づちは世界に何万個もあり、毎日振っています。ただし、完全な打ち出の小づちは各国の中央銀行だけですが。

だから地球全体のGDP(国内総生産)の合計は、後世ほど増えています。各国がこしらえたお金の総額は、上がり続けて下がりません。2018年末頃に日本が1100兆円で、アメリカは2300兆円です。中国は6900兆円という数字がありました。

この数字が「Government debt」「政府負債」です。かつて「国の借金が一人当たり800万円、子孫にツケを残すな」のフェイク情報で知られたあの1100兆円です。

青色申告で使う用紙と同じバランスシート、貸借対照表の右側の「貸方」と呼ぶ欄に集計される、お金の発行残高です。現存する貨幣の発行額合計のことです。

この金額が大きいほど経済大国です。政府が巨額を発行したから、経済規模が巨大化する原理です。日本が世界三位なのは、GDPの順位どおり。

日本の政府負債1100兆円を、1500兆、2000兆と増やせば、国内経済は伸びます。いつまで増えさせるべきかは、人類が絶滅する日まで。だから政府赤字は無限に増えますが、無限大にはなりません。

政府赤字を間違って減らせば、経済は縮みます。政府黒字を目指して財政を健全化すると、国内のお金は枯渇し国民も枯渇します。全員死にます。

何の話かわかりますか。原理がわかりますか。

話を戻します。打ち出の小づちを持つのは銀行です。世界の全銀行。打ち出の小づちを振る行為を、英語で「マネー・クリエイション」と呼びます。日本では「信用創造」です。

信用創造は都市銀行や地方銀行と、日本銀行でも行います。国債は政府の判断で財務省職員が打ち出の小づちを振り、日銀当座預金間の振替システム(ADAMS II)で政府支出します。

ちなみに、公共事業がそば屋や靴下屋でなく土木建設会社なのは、災害大国日本列島のインフラ整備が主だから。川の氾濫や国道の土砂崩れや原発の爆発も、打ち出の小づちで防ぎます。

政府支出が少ないと、崩れたり爆発します。当たり前。

7 好景気とインフレーションは誤解だらけ

日本政府の一般会計の年度予算100兆円は、打ち出の小づちの貨幣プリンターで出力できます。

ここで思考実験を行いましょう。もし税金を一切取らない無税国を試すと、何がどうなるか。国税の本当の目的は、徴税をやめるとわかるのです。

毎年100兆円のお金が国内に増えて、国民はお金持ちになります。すると、国民は物を多めに買います。本来人間は、80年ほどの生涯で色々と体験したいから。誰も家に閉じこもりたくない。

普通の日本人がスーパーカーを3台買わないのは、車が嫌いだからではなく、お金がないからです。アメリカや中東や中国には、スーパーカーを10台も持つ人がいます。クラッシュで全壊しても平気なのは、お金があるから。

もっと少額の話。女性が靴を買う時、甲ベルトと足首ストラップの2足で迷い、両方とも買っちゃえとなる。それが裕福な国民です。たくさん体験して、人生を楽しみ充実させて、自分を磨きたいのが人間。靴もどれが合うか実験的な自己投資でもあり、両方試すと発見が広がるでしょう。

さらに、服もバッグもアクセサリーも欲しい。高級化粧品と百円化粧品の、両方に詳しくなるとか。硬式テニスを始めるとか、カメラ女子とか油絵を習おうとか。皮細工のクラフト工房を開くとか。

その購買意欲を、好景気と呼びます。景気は気分です。「景気は気のもの」と言いますね。

しかしGDP(国内総生産=民間の所得合計)が500兆円の日本で、毎年100兆円が増え続けると、裕福を通り越して金余り現象が起きるでしょう。靴を使い捨てる成金女子や、一人で3千足も買う者さえ現れ、靴店の棚から商品がなくなってしまう。

すると靴の価格7千円が、8千円、9千円と上がっていきます。これがインフレーションです。

インフレは好景気の状態です。

多く売れるのがインフレだから、店は儲かり従業員の給料が上がります。インフレで最多の誤解は、物価が上がれば困窮する不安です。実は靴が2割上がる間に所得が3割上がり、年金も物価スライドさせるから、全員の暮らしが楽になります。適度なインフレは理想です。

しかし超インフレはだめです。7千円の靴が翌年2万円に上がれば、超インフレです。上がりすぎ。

超インフレの原因は、「多すぎる需要=少なすぎる供給」です。お金が増えて買う需要が増えても、工場と従業員が増えず製造が追いつかない場合。お金がだぶつきすぎて、値打ちが下がりすぎます。

お金が増えるとハイパーインフレになると思っている人は完全な誤解で、製品作りが不能の国がハイパーインフレになります。国内で高級靴を量産できず、一眼レフカメラが作れない国がなる。

つまり、超インフレは途上国で起きます。ジンバブエやベネズエラとか。逆に、物作りが上手で突貫工事に強い日本は、超インフレが世界一起きない国です。国際事件のたびに世界中で円が買われるのは、貨幣価値暴落に相当する超インフレがあり得ず、生産力が安定している証しです。生産力。

戦争で工場が焼失した国も超インフレになります。例は第一次世界大戦後のドイツでした。

第二次世界大戦で、東京大空襲や沖縄、広島、長崎をやられた日本は、インフレ率300パーセントが2年続きました。約600パーセントで、10円の焼き芋が2年後に70円に上がった計算。ただハイパーインフレ(インフレ率が年12974パーセント)には遠く、早く正常に戻せました。チームワークで増産が早い国民の特性です。

富士山の噴火で、東京がイタリアのポンペイのように火山灰で埋まれば、さすがの日本も超インフレになる可能性があります。経済政策よりも、名古屋や大阪など地方を補強すべきですが。

8 税金は超インフレのブレーキ役である

ピコーン。「お金を一年で使い捨てれば、累積するお金のだぶつきを防げないか?」。

やはり100兆円を新たに出力し、民間に流します。その後がミソ。年末に40兆円を回収します。

60兆円だけ新発行して、回収した税額40兆円を加えて、計100兆円を予算にします。こうして一部のマネーを循環させる作戦で、見事に超インフレが防げるのです。

「スペンディング・ファースト」の経済用語がこれ。支出が先という意味です。「国庫短期証券」と呼ぶ公債発行で先払いします。現に、去年も今年もやっています。

よくイメージされる「集めた税金を国の支出に当てる」は、間違った解釈です。順序が逆。最初にお金を出して、後で回収するのが本来です。配ってから、一部を戻させる。現にやっています。

税金の40兆円は回収時点で役目を終え、廃棄されます。税金は捨てるお金です。

なぜなら会計上は新しく発行する公債と相殺しているからです。100兆円を新発行する予定が、差の60兆円だけを新発行します。その60兆円がGDPに加わり、経済成長分になる計算です。

では、回収すればなぜ超インフレが防げるのか。どんな手品か。数学と心理学です。

100兆円与えられ40兆円返せば、国民は正味60兆円しか使えません。靴を10足ではなく6足しか買えない。4足分のお金は後で国に納めるから、国民の好きにできません。

もうひとつ、徴税が予定された人は気持ちが落ち込みます。しかも、損を大げさに感じ取るのです。すると6足さえもあきらめ、5足や4足買うにとどめて、警戒して消費にブレーキをかけます。徴税の重さ以上に、重いプレッシャーがかかるのです。人はサイフの中味にナーバスだから。

こうして爆買いは止まります。誰も靴を3千足も買わず、使い捨てず、大事にします。少なめに買うこの消費行動を、買い控えと呼びます。節約心理のことです。

つまり税金は、消費を冷やす目的です。物が売れすぎるのを食い止めます。買う気をなくさせ、不景気に持って行く圧力が国税です。買い控えさせて、節約を促します。GDPを下げます。

国民に渡すお金を制限して、物価がみだりに上がらないように、お金の値打ちが落ちないようにするのが、国の税金の機能です。消費を殺す目的。個人消費を落ち込ませるために徴税する。

そういう効果もある話ではなく、主目的です。しかたのない副作用ではなく、期待される作用。

「増税による消費の落ち込みを防ごう」。この日本語は意味不明です。

消費をぐっと落ち込ませないとまずい時に、増税する仕組みだからです。

発行した貨幣の単位で納税義務を課すと、自国通貨「円」が定義されます。ドルやユーロやポンドや人民元ではなく、円が消えます。日本政府は円に限り、打ち出の小づちを持つわけです。

円の財源は、通貨発行する国力です。生産力を指します。生産力が高い国で、予算不足は起きません。国にお金がない泣き言は、勘違いかお芝居です。国際的な仕組みがそうなっています。